人はなぜ購入するのか?営業マンが知っておきたい「ドーパミン報酬予測誤差」を解説

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投稿者:
代表理事
小沼 勢矢

セールスを行う中で、是非覚えていただきたい「ドーパミン報酬予測誤差」という脳科学的なメカニズムがあります。このドーパミン報酬予測誤差は、約20年前に発見された考え方です。本記事では、脳科学的な根拠によって成約率を高める「ドーパミン報酬予測誤差」についてお話します。

この記事はPodcastでオーディオセミナー配信しています。
目次

「ドーパミン報酬予測誤差」とは?

「ドーパミン報酬予測誤差」がどういうものか端的にご紹介すると「事前期待値よりも、実際に与えられた価値の方が高ければ高いほど、人はその事柄に価値を感じ、報酬を支払いたくなる」というメカニズムです。

例えば、私たちが何かを購入する時には「実際にこれぐらいの価値があるかな?」とか「これぐらいのコストパフォーマンスなのかな?」と予想しながら店頭で見分します。

そんな中「明らかに予想を上回る性能」とか、「明らかに予想を上回る店員さんの対応の良さ」があったとすると、そのことに感動し商品やサービスを購入しようとします

この行動において、ドーパミン報酬予測誤差が起きているのです。

ドーパミン報酬予測誤差を起こすために必要な行動は2つ

ドーパミンとは、快楽を司る神経伝達物質です。

購買行動においては、「物の価値を感じた時」にドーパミンが分泌されます。

このドーパミンの分泌量が多ければ多いほど、購買意欲が高まるといわれています。

こちらに基づくと、私たちがセールスの最中に行うべきことは大きく2つあると定義できるでしょう。

「ドーパミン報酬予測誤差」を起こすために必要な行動①「事前期待値を下げる」

「ドーパミン報酬予測誤差」に基づくと、セールスの最中にすべき行動のひとつ目は「事前期待値を下げること」です。

事前期待値よりも実際の価値の方が高ければ高いほど購入者の購買意欲を高められるのであれば、事前期待値を下げることが有用であると考えられます。

以前、社内合宿でとある箱根の旅館に宿泊しました。

その旅館というのは、かねてから縁があったわけではなく、たまたま直前に予約しなければならなかったため、対して調べもせずになんとなく安かったところをインターネットで予約したという場所でした。

したがって、期待値が低かった状態で向かうこととなりました。

すると思いの外、旅館の部屋が凄く素敵で、部屋から見える箱根の景色に感動しました。

「もう1回この部屋を使いたいな」「もう1回箱根を訪れる時には、この旅館に来たい」「これからも使いたいな」という感情になったのです。

これがまさに「事前期待値が下がっていた」状態の例です。

事前期待値が下がっており、実際に訪れた時に得られる価値が大きいため、ギャップが生まれ「もう1回行きたい」と顧客のリピートや第三者への紹介を喚起できることでしょう。

実際こうして、当コラムにてその箱根の旅館のことを紹介していますので、まさに「ドーパミン報酬予測誤差」に従った行動が生まれたといえます。

「事前期待値を上げてしまう」ことを避ける

事前期待値を下げることで満足度向上が得られるということは、その逆の現象も起こり得るということです。

以前より「インスタ映え」という言葉が流行していますが、見栄えの良い写真撮影ができるということを強みにした「港ホテルのスペース」や「オーシャンビューのラウンジ」を備え、さらには外観等にも特化した施設があったとして、実際にそのホテルを訪れてみたり、写真映えする商品を実際に購入しようとしてみたり、実際にそれらを提供する人物に会ってみると、「どうやら思っていたものと大分違う」ということが起こり得ます。

このケースは「騙された」とまではいかないまでも、残念ながら自分の満足するような体験が得られなかったというもので、まさに「事前期待値を下げる」と真逆の状態です。

箱根のケースは、事前期待値を下げようとしたわけではなく結果的に下がっていたため、実際に行ってみたらすごく感動したというものでしたが、逆に事前期待値が圧倒的に高い状態で行ってみると実際の価値はそうでもなかったとなると、完全に逆のパターンとなります。

つまり、重要なことは事前期待を適切にマネージメントすることです。

「ドーパミン報酬予測誤差」を起こすために必要な行動②「価値の最大化」

「ドーパミン報酬予測誤差」を起こすために必要な行動の二つ目は、「実際の価値を最大化すること」です。

例えば、セールスパーソンがお客様と話しているとき、お客様が商品・サービスの提案に対して抱いている価値よりも圧倒的に高い価値を実際に提供することができればお客様は購買行動に至ります。

事前期待とイコールの価値、つまり予想していた通りの価値だったと判断されれば、購買に至ることもあれば購買しないこともあります。プロセールス協会では、この状況における成約率はおよそ30%から40%ぐらいの間であると捉えています。

つまり30~40%という数値で成約率が推移しているセールスパーソンは、おそらく事前期待値と実際の提案の価値がイコールな状態になっているのではないかと考えられます。もちろん、商材の内容や対象(B to B なのか B to C なのか)によっても内容は異なります。

上記の数値以下、成約率予想20%・10%のビジネスパーソンに関しては、事前期待値よりも実際の価値の方が低かったり、事前期待値を高く上げすぎている可能性があります

セールスパーソンの皆さんは、事前期待値よりも圧倒的に上回る実際の価値を提供するということで「ドーパミン報酬予測誤差」を生み出し、成約率を50%、60%と高めていくことができるということです。

「アハ体験」が「ドーパミン報酬予測誤差」を起こす

では一体「ドーパミン報酬予測誤差」を起こすために何が必要なのでしょうか。

それは「アハ体験」です。

アハ体験が起きれば起きるほど、お客様は「ドーパミン報酬予測誤差」を感じ、結果的に購買行動に至ります。

アハ体験というのは、ある種の気づきやひらめきのことを言います。

日本人による考え方ではなく、アハ体験というのはある種の「腑に落ちる状態」や「電撃が走ったようなひらめきの状態」であり、ドイツのカール・ビューラーという心理学者が1900年代に提唱したと言われています。

つまりセールスの最中、いかにしてお客様に「アハ体験(感動やひらめき、腑に落ちる感覚)」を喚起できるかが重要です。

アハ体験の起こし方

では、アハ体験を起こすためにはどうすればいいのでしょうか。

前提」という概念が、アハ体験を起こすために必要になります。

簡潔に述べると「前提」とは、あらゆる思い込みのことを指します。

人間は、何か行動するときには必ず「前提」というものに支配されています。「あらゆる思い込みに支配されて行動している」という行動原理を忘れないでください。

例えば東京都の大田区に住んでいて、焼き鳥がとても好きな人がいたとします。このエリアで美味しい焼き鳥を食べたいと思ったら何をするでしょう。

基本的にはネットで検索すると思います。ただ、なぜネットで検索するのでしょうか。

現代では当たり前の行為であるこの「ネットで検索する」という行動の中にも、実は前提が含まれています。

インターネット検索を利用すれば「近道が見つかる」とか「たくさんお店が見つかるはずだ」とか「ネットで検索したら美味しい焼き鳥屋さんがきっと見つかるはずだ」といった前提が利用者の頭の中にはあると思います。

つまり、思い込みです。

自分の中に思い込みがあるからこそ、「ネットで大田区の焼き鳥屋さんを検索する」という行動に至るのです。

これが、「前提は大きな影響を持つ」という所以です。

お客様目線に立つためには前提をなくし「セールスを手放す」

人々の行動ひとつひとつを見てみると、実はその行動の裏には必ずと言っていいほど、無自覚であれ自覚してるのであれ「前提(ある種の思い込み)」が含まれています。

もちろん、良い思い込みもあれば、悪い思い込みもあるでしょう。

私がお教えしているセールス技術のひとつに「セールスを手放しましょう」「セールスを手放して、セールスの現場に臨みましょう」という考え方があります。

セールスを手放してセールスの現場に臨むことが大事である理由は「自分の商品・サービスを販売しよう」というように、常に「販売者側の目線」に立っているため、次のような前提が存在することが懸念されるからです。

お客様の本当に言いたいことが聞けないのではないか

お客様が本当に困っていることを、自分の頭の中で勝手に自分の商品サービスと結びつけて解釈しようとしてしまうのではないか

もしかしたら、セールスを手放そうと思わなくても、実際にお客様に話を聞いている時に、お客様の本当のお困りごとを導き出し、支援ができる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし私は、少なくともセールスにおいては「セールスを売り込もう」という思考でいると、結果的にお客様の真実の声が聞けないのではないかと考え、ビジネスパーソンの前提になりかねないと判断しているため、「セールスを手放す」というメッセージを発信しているのです。

セールス現場における「アハ体験」の起こしかた

前提とは「あらゆる思い込み」のことであるとご説明しました。

ことセールスの場において「お客様が得たいこと」「得たいと思っているが得られていないこと」があったという場合は「お客様が無自覚で抱え込んでしまっている前提がある」という状態と考えられます。

特にここでの前提とは「良い前提、思い込み」ではなく「非生産的な結果をもたらすあらゆる思い込み」のことを指します。

実際の例でご説明します。あるお客様が私の所へ相談に来られました。お客様ご自身はセールスが苦手、したがって成約率がなかなか上がらないということが悩みです。

このお客様は「セールスが苦手である」「成約率が上がらない」という非生産的、ネガティブな結果を手にしていることになります。

ただ、この方に深く話を伺ってみると「売り込みと思われるのが嫌い」と思っており、そもそもセールスとは売り込みであると思い込んでいるということでした。

この方はセールスがすごく苦手で、セールス活動自体が本当に嫌になってしまっていました。

しかし、売らないと成果を上げることができない。そんな中で頑張っておこなったセールスは消極的な内容となり、価格を伝えるべきところで伝えられなかったり、お客さんのためではあるはずながら「売り込み」の行為と思ってしまうため商品の提案ができずに終わってしまったりというケースが多発しました。

さきほど提示した「セールスとは売り込みである」という前提が見えるかと思います。


また「自分にはそもそもセールス力がないんだ」という思い込みを持っているかもしれません。

ほか、あらゆる思い込みが前提となっているはずなのですが、その中でも特に「その人にとって非生産的な結果をもたらしていることにつながっているもの」を見つけることが大事です。

この点を指摘してさしあげることによって、相談者様の中で「アハ体験」が起きるのです。

非生産的な結果をもたらしているあらゆる思い込みや前提を、相談中にお客様に指摘することで、お客様がアハ体験を起こし、気づきが生まれ、結果的にドーパミン報酬予測誤差に繋がっていくというメカニズムを生み出せます。

セールス以外の事例では「起業したい」という相談を受けたことがありました。

「自分でビジネスを始め、自分で収入を得られるようになりたい」「会社に依存せずにこれからの時代を自分の力で稼ぎたい」「自分の力で自立したい」と相談に来られる方がいらっしゃいます。

ただお話を伺うと、起業したいとは言うものの心のどこかでは「起業できない」と思い込んでいるというケースが多くあります。

もっと詳しく、なぜ上手くいかないと思っているのかについて話を伺うと「そもそも自分には、企業してもお金を稼げるような能力や、お金をいただけるような価値がないんじゃないか」と、自分の価値を相当低く見積もっていたり、そもそも自分の価値を探そうとしていない、ということが多く見受けられます。起業したいのにできないというのは表面上の悩みに過ぎないのです。

そういった方は、そもそも自分に対しての価値というものが無自覚の内に見出せていないということになります。

つまり、自分についての価値を見い出してもらえるようなアプローチをして行かない限りはいくら企業のノウハウを教えても、いくらセールスのやり方を教えてもうまくいきません。

したがって、相談者様にどうやって気づいていただくか、いかにして気づいてもらってアハ体験を起こすかが重要になります。

もちろんここでご紹介したケースは一例ですので、お悩みの内容やその人の生きてきた個人史、いま置かれている状況により千差万別です。一つの事例として捉えていただければと思います。

ドーパミン報酬予測誤差を起こすために必要なことはお客様の持つ前提の指摘!

事前期待値よりも実際の価値が高い状態、つまりセールスパーソンがセールスの場で相手に提案した内容について予想よりも価値が上回っている状態が多ければ多いほど、ドーパミンが分泌されて結果的にアハ体験が起きます

アハ体験はセールスにおいて非常に重要な概念で、アハ体験が感動や気づき、ひらめきに生まれ変わることによって購買力は高まります

ではアハ体験を起こす為に何が大事か。前提に気づいていただくということです。

前提に気づいていただくためには、こちらがお客様が持つ前提についてしっかりと指摘することが大事です。

前提とは、一般的な思い込み、あらゆる思い込みが該当します。

特に本コラムでは、セールスの現場において非生産的な結果をもたらしているあらゆる思い込みのことを指す、と定義します。

もちろんそれぞれの前提は各クライアント様との対話によって見つけていくことになります。

基本的には、お客様が得たいとする結果に対して「その前提を抱えてることによって望み通りの結果が得られなくなっている」つまり「結果に対して一番ボトルネック・制約となっている」ものを見つけ出すことが大切です。

それを見つけ出し、指摘することによってアハ体験が起きます。先程の「売り込みセールス」「起業できない」の事例を参考にしていただければと思っております。

「前提」の見つけ方①:自分の行動から前提を考える

お客様の前提(ある種の思い込み)を見抜くためには、まずは自分自身がどういう前提を持って日頃行動してるのかについて自覚してみることをおすすめします

例えば、自分自身「得たいこと」があるとします。これぐらいの収入を得たい、これぐらいの売上が得たいという風に思っているなどです。

そして「現状」があります。現状に対して行動を起こそうとするでしょう。

例えば、月1千万円の受注を獲得したいと思っていながら、自分は月300万円の受注しかない場合では、ギャップが700万円存在します。

ではその700万円のギャップを埋めるために、どういう行動をとるでしょう。

例えば、テレアポの数を増やす、既存のお客様に紹介をいただく、等が考えられます。

それでは「テレアポの数を増やす」という行動が選ばれたのはどういう前提によるものでしょうか。

自分に問いかけ、自分の頭の中で「どういう思い込みがあるから、どういう前提があるからそういう行動をしようとしているのか?」を問いただしてみるべきです。

例えば「テレアポの数を増やそう」と考えたのは、もしかしたら自分の頭の中にテレアポ以外の回答が浮かばなかったからそうしたのかもしれません。

すると、自分の頭の中には「テレアポをすれば何件かは新規が取れるはずだ」という思い込みがあるのかもしれません。あるいは、自分はテレアポが比較的得意であるという前提や、「テレアポをしていれば会社からガミガミ言われることはないだろう」という思いがあるのかもしれません。

しかし、その思い込みが真実ではない場合もあります。

このように、自分自身が目標に対して行動している時、その行動の裏側にある自分の前提を確認してみる、自分を全体的に探ってみるということは非常におすすめです。

「前提」の見つけ方②:人の発言から前提を見抜くトレーニングをする

もう一つは、少しレベルが高くなりますが「人の発言から、この人はどういう前提を持っているのかを確認、推測する」です。

少し難易度が高い、この「人の発言から前提を推測する」もお勧めですが、まずは一旦自分自身の行動の裏側にある前提というものを自分自身で探っていくということをよりお勧めします。

「自身の行動の裏側にある前提を自分自身で探っていく」という行動によって、人の前提にも注意・関心が向き、結果的に全体を見抜く力や推測する力が高まります。

つまり、アハ体験を喚起させやすくなるため、セールスの成約率にも繋がっていくということが言えます。

投稿者:
代表理事
小沼 勢矢

一般社団法人プロセールス協会代表理事。株式会社プロアライブ代表取締役。脳科学を活用したコンサルティングを8年で3,500人以上のクライアントに提供してきた。コロナ禍で営業に課題を抱えるクライアントが増加したことがきっかけで、脳科学を基にしたセールスメソッドを確立。価値あるサービスを世の中に上手く届けられずに困っている事業者様を支援したいという想いから、一般社団法人プロセールス協会を設立。 【出版実績】 自分の脳に合った勉強法(フォレスト出版) シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方(翻訳) シャイン博士が語る組織開発と人的資源管理の進め方(翻訳)

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